fc2ブログ

韓流ドラマ ベートーベンウイルスSS

 ←夕陽 →Addict

降り積もった雪が、すべての音を吸い、静寂が支配していた。
雪あかりが、ルミの湿った頬に反射して、彼女の顔を、いつもに増して透き通るように白く見せていた。






何気なく恋人にむけた疑問符は、思いもよらない感情の波をもたらした。
正直過ぎる簡単な一言が、ルミの心を乱れさせたーーーーー


休日の遅い朝食を終えて、二人がソファーで寛いでいた時、新聞を広げていたカン・マエが、ふいにルミに向かって口を開いた。

「ルミ、今日の夕食は要らない。」

「休みなのに、どうしてなんです?
また、ソリストとの顔合わせですか。」

「……いや…そうだが、昔からの知人だ。」

簡単に過ぎる、否定を交えた彼の答え方ーーー

それは彼がむかし、ある程度以上の関係にあった相手を語る時に、無意識に取り繕う物言い……

「また、昔の彼女だったりして?」

不安を隠し、無邪気を装った声で尋ねる。
彼のしばらくの沈黙が、今朝に限って やけに長く感じられた。

「そうでも、お前には関係無い事だろう。」

つぶやくように言うと、彼は また新聞に目線を戻した。

そう……私の知らない彼の過去があることなど、彼と私の年の差を考えるだけで、明らかな事だ。

こだわることはしないでおこう。
いや、こだわってはいけない……
そう思ったのに、今朝に限って堪えきれない涙が、邪魔をした。


わたしは、さっきトーベンの散歩に行ったあと、玄関に置いたままになつていたダウンコートを羽織ると、家から出て景色が広がる高台を目指して歩いた。





ルミのスノーブーツの足音が玄関から聞こえ、ガタン‼ という乱暴に過ぎるドアの閉まる音が響いた。

指揮者らしく、音に対して敏感な恋人を気遣い、大きな音をたてることの無いルミが、湧き上がる感情を自分に伝えたような気がした。


大きくため息をついてみる。

玄関には、何時の間にか トーベンが、ルミの帰りを待ち受けるように座り込んでいた。
愛犬の背中を撫でると、機嫌が悪そうに 一度だけ吠え、こちらを向こうともしない。

「俺が悪いと思うか?」

愛犬に聞いてみると、即座に吠えた。
こいつはルミの味方かーーー

自分はどうして、安心させるような言葉を掛けて遣れないのだろう。
一言、
「気にするな、ただの友人だ。
いまはなんとも思っていないから安心しろ。」

などと言ってやれば済む。
簡単な事なのに。
かえって、いつも嫉妬の感情を自分に向ける事のない、物分りの良すぎる恋人に、
珍しい感情を向けられて、快感を感じている自分に気が付く。
自分の昏い(くらい)感情を自覚した瞬間、自分の胸が痛くなった……
無自覚に己の胸に手を当てている自分に、嗤い(わらい)が込み上げてきた。







高台について周りを見渡すと、
誰もいない……まるで世界に自分一人しか居ない感じがした。
空気は冷たく澄みきって、たまに吹く風が 帽子をかぶっていない私の髪を掻きまわし、冷やしていく。

何もかも全部、新しくなって、自分の持て余している想いも、消えてしまえばいいーーーー

降りだした雪を払い除ける事もせずに、目を閉じて立ち尽くしていると、
左側から、聞き慣れたリズムの足音が近づいてきたーーー







俺は、ルミが好きな場所。と、かつて二人で散歩した時に教えた、拓かれた景色が見える高台に向けて歩いた。



コートを着込んで身仕度を済ませると、ルミが忘れて行った手袋とニットの帽子が目に入り、

【あのバカが。この寒さの中、コートだけしか着ていないのか。】

自分の言動が、ルミの不安をつのらせた事を自覚しながら、どこか相手を責める気持ちの方が、まだ上回ってい た。
彼女の手袋だけを掴み、俺は玄関を出た。






足音が近づいて来る。
逃げなきゃ、と足を踏み出そうとするのに、身体か硬直したように動かない。


15分ほど歩くと、遠くにルミが見えてきた。
【あいつは単純だな…】
分かりやすく拗ねてみせる恋人に、遠くから 誰にも見せた事の無い優しい微笑みを遣る。

気がつくと早足になり、ルミに向かっていた。
背中を向けて、こちらを見ようとしない恋人を、肩に置いた手に力を込めて、自分の方に向かせる。

「……ルミ……」

人差し指でルミの顔を上げると、寒さの中で 赤くなっている頬に、涙の跡が白く残っていた…

また、さっき感じた痛みを胸に覚えた。
彼女の頬に手を添わせると、凍りついたように冷たい。
無言で俺を見上げる瞳は、寄る辺の無い彼女の想い そのままに透明で、つい目を逸らしてしまう。

彼女の手をとり、コートのポケットに入れていた手袋を、赤くかじかんだ華奢な手にはめてやると、

「家に帰るぞ。早く暖まらないと風邪を引いてしまうからな。
帰ったら、お前の好きなホットチョコレートを作ってやる。」

俺はルミに声を掛けると、彼女の手を掴んで歩きだしたーーーー


【俺はお前がわかってくれると信じているから、言い訳も本音も言わない。
だから……許してくれ。】

言葉には出せない想いを、ルミの手をにぎりしめる力に託して、
カン・マエは、いつもより緩やかな歩みで、自宅に向けて歩いた。


Fin.




あとがき

素直になれないマエストロと、健気なルミのお話。

我が家にしてはオリジナルのドラマに近い世界観だと思います。

途中、Sが垣間見えるところは、我が家風味ってことで。

なんだかんだカッコつけてても、マエストロはルミを愛していて、涙の跡が白く残ってるのをみたら、堪らなく苦しいんです… が、素直にはなれない。

もどかしい感じがまた、良いなあと書いていて思いました。
これこそが、ベバだ! な~んて。


甘さゼロですが、マエストロのつくるホットチョコレートに免じて許して下さい(笑)

それでは良い週末を。
お仕事の方は上手く行きますように。


*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*





































iPhoneからの投稿
スポンサーサイト





  • 【夕陽】へ
  • 【Addict】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【夕陽】へ
  • 【Addict】へ