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韓流ドラマベートーベンウイルスSS

Little lovers(14)

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公演後のレセプションを終えて、パオラとトヤマはホテルのベッドで外気の冷たさに冷え切った身体を温めあっていた。
「ヒデ……疲れたぁ。
でもなんだか爽快感があるの、やり切った満足感…かな?
今まで知らなかった感覚よ。」
彼の肩に頬をのせたパオラは、目を閉じてあくびまじりに呟く。

「うん…僕も同じだ。
ラフ三は繊細で美しいメロディで知られているけど、難解なピアノソロだけじゃなくオーケストラでもふ高度な演奏技術が要求されるんだ。
指揮者としての僕には、まだまだ触れることの出来ない領域にある曲なんだよ。
全編にみなぎる緊張感には、ソリストを含めた演奏者全員の緊張が折り重なっているんだ。快い緊張感だった…
しかし…びっくりしたな、、、
君は居なかったか…ゲネプロの時マエストロは凄いことを言ったんだよ。」

含み笑いをするトヤマをパオラは促す。
「なになに?
えーーっ!早く教えて。」
「マエストロ・カンってさ、くだらないことを言ったら『おまえと一緒にするな』と眉一つ動かさないで捨て台詞を言いそうなイメージだろ?
そのマエストロがさ…」
思い出すように言葉を切り、トヤマは続ける。
「演奏前に言ったんだ。
『今からあなた方は一番大切にしている人に向けて演奏してください。
その人に聴こえるように、その人の胸に届くように』
俺も含めてオーケストラの全員が呆気に取られてシーンとしてた。
ともかく、今回はマエストロ・カンのラフマニノフって事だけで異例中の異例だったし、それに…」
「マエストロ・カンのミューズまでお出ましだったしね~」

間髪置かずに、碧い瞳を大きくさせて悪戯っぽく受けたパオラに、トヤマは引き締まった頬に皺を寄せて笑った。
「女の子には堪らない展開か?」
「そりゃあそうよ!あのマエストロ・カンの恋人現る!ですもの。
あ、マエストロ本人は何にも公式発表してないから違ったら怒られてしまうわね。
でもレセプションの前に、秘書室のマレーネさんが付き従っていたけれど、ホテルのタクシー乗り場に彼女を連れて歩くマエストロを見た人がいるそうよ。雰囲気は恋人同士にしか見えなかったって。」
「見たそうよ…って、それも怖いな。
そのうち尾ひれがついてマエストロ・カン婚約!なんてクラシック誌の紙面を飾りそうだな。」
「だってヒデ、ホテルには裏口もあるし隠そうとすればできるはず。
なのに正々堂々連れて歩くなんて隠そうとする意思は無いんじゃない?
むしろ彼女があまりに人目を惹く美人だから、開き直ってるって説もあるけどね。」
「なるほど……そうか。」
パオラは遠い目をしたトヤマのこめかみにチュッとキスしたあと、彼の耳元で囁く。
「ねえヒデ…この前のメールで言ってた、『考えてたことを実行に移す』ってなに?
ご褒美でしょ、教えてよ。」
トヤマはパオラの肩をぐいと押し、自由を奪う。
瞳を合わせて触れるだけのキスをすると拘束していた両手首を解き、腕枕にパオラを抱えた。
「明日のお楽しみだ。
夕日に照らされたチェスキー・クロムロフの街を眺めながら、君に伝えたい。
楽しみは待つほどに美味しくなるものだろ?
さあ、明日は僕たちの初めての旅行に出発だ。あしたの朝は寝坊してゆっくりルームサービスの朝食を摂ろう。
パオラ… ゆっくりお休み、、、」

トヤマはパオラの寝息を聴きながら、いつしか眠りの底に入って行ったのだったーー




【公演を無事に終える事が出来ました、おばさまのおかげです。
身重のバイオレットがお世話になり、申し訳ありません。
まさかまだ二歳のバイオレットがママになるなんて思いもしない事だったので始めは面食らいました。
おばさまのご明察通り、新しい命が産まれる喜びよりもバイオレットの心配ばかりが先立つこともありましたが、今はルカ君とバイオレットの赤ちゃんが産まれるのが楽しみです。
ルカ君とバイオレットの赤ちゃんがバイオレットのお腹の中ですくすく育つように、私の気持ちの上でも大きな変化がありました。
好きな人が出来て、今まで感じられなかった深い安寧が私にはもたらされた気がします。
彼は心中に深い傷を抱えた孤独な人です。未だ正直私には彼と対峙する自信もなく、愛し抜く覚悟も足りません。
バイオレットの赤ちゃんは私の家族であり、おばさまの家族でもあります。
彼が小さな命の温もりに触れて、冷え切った心が温かくなればいいな。とは思いますが、これは私の傲慢なのでしょう。
これから彼とチェコのチェスキー・クロムロフの街に旅行に行ってきます。
明後日には戻りますので、もう少しバイオレットをよろしくお願いします。】
アッカーマン夫人はパオラのメールを読み終わると、ルカを膝にのせているルミに微笑みかけた。
「どうしたんですか?」
怪訝そうに小首を動かしたルミの手を、ルカのザラザラした舌がペロリと舐めた。
「なんでもないわ。
今日はマエストロはご不在なの?公演が終わったばかりなのにお忙しいようね。」
「先生は忙しいのが普通の人なんです。今日は依頼されていた原稿を書いてるみたい。次のツアーの準備の事務方との打ち合わせもあるようです。
それにしてもバイオレットちゃんがママになるなんてビックリ。
産まれた仔たちをまた見に来てもいいですか?」
「大歓迎よ、いらっしゃい。
産まれて暫くはバイオレットも神経質になるでしょうけれど、猫ちゃんは気紛れだから一週間もすれば赤ちゃんを見ることは出来るわよ。
ルミさん、今回も韓国に帰るのよね。」
「あと二週間後に帰国する予定です。
先生のアメリカツアーも始まるので、ちょうどいいタイミングでの帰国なんですけれど…間に合うかな、、赤ちゃん見たいな。」
「私の家族が増えるのよ、本当に楽しみ。バイオレットは大変だけれどね。」
「家族・・・ですか。」
ルミの横顔に翳が走り、口元を引き結んで俯く様子は、以前サティを聴かせた時の彼女を想起させた。
無邪気に猫の仔についての期待を語るルミとは別人のようで、夫人は戸惑う。
「なんて言いながら、私の一人暮らしは変わらないのよ。
慰めをルカたちに求めている哀れな老婦人ってところね。
だからルカは私には飽きて、遊びに来てくれる若いお姉さんの膝が大好きなのよ、困ったちゃんよね?」
ことさら戯けた調子の夫人のかえしを聴いて、ルミの顔に微笑みが浮かんだ様子を、夫人は横目でちらっと見る。
{一筋縄では行かないからこそ、恋愛は歓び深く、ほろ苦くて、やめられない、、か。}

「ルミさん!紅茶のお代わりはいかが?」明るく声を張ると夫人はお湯を沸かすためにキッチンに行くべく立ち上がった。




パオラとトヤマはミュンヘンから電車に乗り、チェコ・プラハで散策を楽しんだあと、バスに乗り換えて三時間の旅の末、チェスキー・クロムロフの街に着いた。
お昼にミュンヘンを出発し、着いた街は既に夕闇が近づきつつあるーー

「パオラ、疲れたか?
街全体を観るのは朝の方が綺麗だ。
夕食まで時間があるから、城の近くにあるプラスティー橋にライトアップされた城を観に行こう」
パオラは、頭一つぶん上方から聞こえた声のあと、唇が触れんばかりに近づけられた恋人の顔に顔を赤らめながら頷く。
「君は面白いな… 初対面の時は成熟した大人の女性に見えたが、中身はティーンエイジャーみたいだ。
初々しくて不器用で、感情が直ぐに顔に出てしまう。
嘘がつけないタイプだな、、」
トヤマはパオラの手に深く指を絡ませて歩き出す。
「遊びには向かない?」
「ああ…こんな心の綺麗な女性を騙したら罰が当たるよ。
君はワンナイトラヴを愉しんだことある?」
トヤマの質問に、パオラの眉がピクリと動いた。
「失礼な人ね…あったとしても答える気はないわ。
トヤマさんなら落とし甲斐がありそうだから、女性は放っておかないでしょ?ワンナイトラヴなんて軽いもんよね。冷たく突き放すのも得意そうだし。」
トヤマはムッとしたパオラの顔を覗き込むと、手を離して肩に手をまわす。
「俺はあるよ… 虚しい心の穴を虚しい行為で埋めてた事が。
でももう二度としない。」
「良心の呵責?それとも飽きたとか?」
大人の女らしく、物分りよく、、どんなに自分に言い聞かせても動揺は顔に滲み出てしまう。
見る事もなくパオラの顔を斜め上から伺った外山は、やはり動揺しているのだろうかと思う。
「いや、、違う。必要がないからさ。」
プラスティー橋のたもとで足を止め、トヤマは満月の空を見上げながら応えた。
「俺は色々な人生の出来事の過ぎていく流れの中を、愚かなまま流されてきた。
人生を変えるきっかけを他人に求めてはいけない。自分を戒めながらも、俺はそれでも誰かを待っていた。自分がなりたい自分になるには、一緒に居たいと心から求める相手が必要だった。」

二人は黙り込み、城の上宮と橋に次々ライトが付くのを眺めていた。
「だから…ゴメン。
君が側に居てくれないと困るんだ。
前にシンデレラの靴ごっこなんて、ふざけた真似をしたのは自信が無かったからで、シリアスになり過ぎて傷つくのが怖かったからだ。
哀しい記憶に翻弄される…一番人に見せたくない俺を、君になら見られても構わないと思う。」
パオラはふわりと頬を緩ませると、城の上宮に目をやりながら応える。
「ヒデは複雑ね…私なんか表向きだけ大人の女を装っているだけだから罪は軽いもんだわ。
いいわよ…貴方が想ってくれるぶん私も想ってあげる。
それでいい?貴方の今までの悪行を赦してあげる代わりに私へのご褒美をちょうだい。夜景を観ながら言うって言ってたわよね?トヤマさん。」
艶のある含み笑いをするパオラの顔に外灯の光があたり、長い睫毛の影が映し出されていた。
トヤマは、トパーズを朝の光で透かしたような綺麗なパオラの碧い瞳に見惚れ、やみくもに抱き寄せる。
「ねえ、人が見てる… 」
「構うものか…俺たちが何処の誰かなど、此処では誰も知らない。
ありがとう、、、パオラ・・・
愛している・・・」

「初めてヒデの声で聴いた…
メールを何度も読み返しては、貴方の声を思い出して聴いた『アイシテイル』って言葉。
実物は違ってたわ、、、想像した声よりもっともっと素敵。
大好き、、、だーいすき!」
トヤマの首に両手をまわして抱きつくパオラの身体の柔らかい感触が、彼の心に長年嵌めてきた鎧を溶かしていくようだった。
ありのままの自分・・・もう自分にも定かではない裸の心が求めていた、素朴で分かりやすい愛情が流れ込む音が聴こえた。
トヤマはラフマニノフを弾いていると何故苦しくなってしまっていたのか、不意に合点がいった。
ラフマニノフの書いたアダージョのメロディー・・・・
祈るような静謐が流れるオーケストラの音は、彼が目を背けていた幼い自分に向けられていた愛情を自分が無意識に音にすり替えていたのだと。
時に熱情的に謳い上げるエネルギーを自分が封じていた事を。
歓喜の中をテンポを上げて、走り抜け得たのは、他でもない…パオラの存在があったからだとーーー

二人は橋を抜けてスヴォルノスティ広場に出ると、ベンチに並んで座った。
フラデークの塔が遠く見える広場には老若男女、国籍も様々な人々がさんざめいていた。
「君が喜んでくれるか分からないが、ミュンヘンに引っ越す事にした。
家は既に借りてある、君の家の向かいが引っ越したのは知らないかな?
あのブラウンの壁の小さな家が俺の新居だ、御近所だからよろしく頼む。」
パオラは虚を突かれたように目を見開く。
「ヒデ… 、、、、」
「俺はフリーランスだから、何処に住もうが仕事は出来る。ヨーロッパなんて二時間もあれば隣の国に行けるしな。
パオラはバイオレットの事をいつも気にしているだろう?
パオラにとっては大事な家族だからな。俺たちみたいな根無し草みたいに色々な国を飛び回らなきゃ仕事にならない稼業は、自宅を留守にする事も多い。
パオラはバイオレットを安心して預けられる人のいるミュンヘンからは離れたくないはずだ。
だから、俺がミュンヘンに来る事に勝手に決めた。
向かいにシェフが居ると便利だぞ!
君の好きなパスタも食べ放題だ。」

「…………… 」
「パオラ!、、おぃ、どうした?」
「… だって、、、嬉しいの。
嬉しくて涙か止まらないの。なんでこんなに優しい、、う、っっ、、、」
「な、泣くな、、おぃ、、」

パオラはトヤマの胸に抱きついて子供のように泣いた。
我慢が心に残した澱が、流されていく。心地よい涙が泣いても泣いても…溢れてきた。
「明日は早起きして早朝の街並みを見るぞ。
ほら、いい歳の大人がふぇんふぇん泣くんじゃない!
目が腫れても知らないからな。」

過去の自分と向き合えなかった二人が、計らずしてお互いの心の澱を洗い流しあっていた。
熱く湧き上がる想いに躊躇うことも、心の隙間を埋めてくれるものを探して遠回りすることも、もう、、、無い。

分かり合える、、共に生きていれば。

トヤマは強がりで意地っ張りな彼女の涙が伝えた、奥底に秘めていた孤独ーー尽きせぬ雫を受け止めながら思っていたーーー

Little lovers(15)に続きます。
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