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韓流ドラマベートーベンウイルスSS

Little lovers(11)

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カン・マエは、練習室に総譜を忘れた事で第一ヴァイオリンに属するネーナとザビーネの他愛ないおしゃべりを耳にする事となった。
どうやら「女の勘」で己についてアレコレ話してもいたようだが、指揮者としての業務には関係ないと、カン・マエは直後に割り切り、忘れる事に決めた。
聞くだけ聞いた挙げ句、他言無用と恫喝じみた優しい物言いで 自分の都合上二人の口を封じるのはカン・マエの本位ではなかったがーーー
彼女たちの会話から偶然にも、今回のソリスト…トヤマとパオラの関係についての自分の予感が当たっていた事を確認する事となった日から数日が経つ。
そして…現在、カン・マエはルミがミュンヘンに戻って来て、四回目の朝を迎えている。
「先生、今日も遅いの?」
ルミはカン・マエの作ったポーチドエッグにナイフを入れ、グリーンアスパラガスに黄身をくぐらせながら、目の前の歳上の恋人をうかがうように問う。
カン・マエのワーカホリックぶりは変わらないが、ルミがミュンヘンに戻って来て以来公演前の諸々に加え、主席としての仕事まで加わって、まともにゆっくりと顔を合わせての会話が成立するのは朝ごはんの食卓を向かい合って囲む時だけになってしまっているのも事実である。
さりげない…しかし寂しさのニュアンスをギリギリまで抑えた声音は、かえってカン・マエをいたたまれない気分にさせた。
元々はこの時期、フィルの公演前とはいえエージェントから受けていた海外と国内での五件の客演の仕事を、「訳あり」のソリストのために他の指揮者に代振りして貰っているのだから、朝ぐらいしかまともに家に居なくてもミュンヘンに己が居るだけで上々だろう…と内心では思いながらも、彼は穏やかにかえす。
「仕方ないだろう…仕事だからな。」
ふう…と太い溜め息まじりに、いつもの感情が読みづらい顔つきで応えた恋人に、ルミは口元を緩ませた。
「大丈夫よ。家にはトーベンが居るし、一人の時間は大学の課題がはかどるしね。」
やけに明るいルミのかえしに、どう応えれば良いか迷い、彼も目の前の卵料理に向かってカトラリーを動かした。
「ガスタイクセンターまで一人で来られるか?」
ライ麦粉で作られた薄いパンにカッテージチーズを置いていたルミが、カン・マエの質問の意味を理解しかねている様子を眺め、彼は左の眉を上げて目を丸くさせた。
「一緒にランチに行こう。今日は二時までアポイントが入っていないから大丈夫だ。
昼にフィルハーモニーに来るといい。
入口にある秘書室に行ったら、筆頭秘書のマレーネがいるから呼び出してもらえ。
彼女は英語も堪能だから無理して下手なドイツ語で話さなくてもいいぞ。
俺の仕事が片付くまで別室で待つように手配しておく。
お前の耳が悪いことも話しておくから安心して大丈夫だ。秘書として信頼できるベテランだからな。」
「でも先生… 私は、、、」
「でも?なにが『でも』なのか?
俺は今まで、お前と一緒にいるのを一度として隠そうとしたことはない。
フィルハーモニーの事務所に連れていく機会が今までなかっただけだ。
わかったら、そんな顔をするな。」

遠慮が先立つルミの様子に苛立ちを抑えたカン・マエはマエストロ然とした重々しい声で応え、ひと言付け加える。
「二人でランチだからな。昔からお前の履いている黒いハイカットのスニーカーはやめてくれ。
出来れば少しお淑やかな格好で来てくれるとありがたい。」

「せんせーーっ!」
久しぶりに恋人が切り出したランチデートの提案に、鳶色の瞳を輝かせ、彼の首に細い腕をまわして飛びつくルミにカン・マエは満足そうに目元を緩めた。
〈お前は、世界中の誰に見せても恥ずかしくない俺のミューズだ・・・〉


ルミの笑顔に見送られたあと、愛車の車窓に流れる街路樹として植えられたドイツトウヒの並んで立つ景色を漆黒の瞳に映しながらハンドルをにぎるカン・マエは考えるような目つきになる。

トヤマとパオラーーー
彼等が短期間に惹かれ合い、深くお互いを知りたいと願ったのは必然だったのかもしれない。
少なくともトヤマはパオラに特別な感情を持っていたにしても、理性を失うタイプではないようだ。
この前のリハーサルでも、恋愛のさせる心の昂まりだけが先走る演奏ではなかったことからも、これは明白だ。
何故か二人とも、以前よりストイックな印象さえある…音楽に心臓を捧げて一心に向かっているようだ。
トヤマからは、過去の自分を悩む告白をした時の虚無感は払しょくされ、パオラには目標を定めた人間の潔さと以前はまるで感じられなかった自信とプライドが見える。
トヤマは俺と似ている所がある・・・
幼少期の体験…人を信じる事に対する拒絶反応… そして愛される事に対する恐怖も。
いつか離さなけれはならぬ手なら、始めから掴まなければいいとトヤマも考えていた筈だ。
面倒臭く、事ある毎に泣いたり笑ったりする事には酷く不慣れな人種と、世間には諦めてもらうしかない。

俺がトヤマに手を差し伸べる気になったのは、過去の自分を見ているようだったからだーーー
人を愛し、その人の存在を生涯魂の中に囲うにはかなりの覚悟がいる・・・
「あの時」キム・ガビョン老が口にした言葉の意味が、自分によく似たトヤマを前にし、ルミに出会う前の自分を振り返る体験をした今になってよく分かる。

俺がルミに赦しを得ているように、トヤマもパオラに自分の脆さを赦され、パオラの持つ強さと明るさに希望を見出す事ができるのなら、それも悪くはない。
とりあえずは公演を無事に終えることだ…自分はマエストロとしてソリストの演奏にオーケストラを呼応させ、全ての調和を整えてピタリと同調させるために力を尽くすだけだーーー

気分を曇らせていた淀みが綺麗さっぱり吹き飛ばされた心地がした。
カン・マエの迷いや、我知らずに湧き上がっていた不安や怒り…すべての負のエネルギーは正しい場所に向かって方向変換を始めたーーー

彼の瞳には爛々と光が宿り、彼らしい鋭さが戻っていた。

*・゜゚・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゚・*

「おばさま、申し訳ありません… 」

「いいのよ、貴方は10日後に大事な公演を控えているのでしょう。リハーサルもより本番に近くなって、ソリストなら神経もピリピリするものよ。
パオラ、貴方は暫らくハープに集中した生活をした方がいいわ。」

アッカーマン夫人の自宅リビングには、頭を深々と下げるパオラの姿があった。
あと20日足らずで出産を迎えるバイオレットのお腹は膨れ上がり、動きも鈍くなってきていた。
パオラは公演を控えて留守がちの我が家にバイオレットを置いて出かけるのは危険と判断し、夫人の家で出産まで預かってくれるよう頼みに来たところだった。
「コーヒーにしましょうか?頂き物のビスコッティがあるのよ。」
夫人はキッチンでケトルに水を入れながら、パオラに母親のような優しい眼差しを向ける。
「パオラ、明日またウチに来られる?」
「は、はい、当然ですわ。預けっぱなしでバイオレットの顔を見にも来ないなんて…」
「そうよね、、、」
夫人の珍しくこもった声に、パオラは瞠目してしまった。
「ふふ、パオラったら・・・」
パオラの前で大ぶりのカップにコーヒーと暖めたミルクを注ぎ、ソーサーにビスコッティを一本置いて、すーっとパオラの前にソーサーを滑らすように差し出すと、悪戯っぽく目尻に優しいしわを見せて笑った。
ミルクの香りに誘われて夫人の膝に乗ってきたルカの艶のある黒い短毛を撫でながら、夫人は呟く。

「パオラは本当は素直な娘なのね~
初対面の時は世の中に怖い物なんて一つもなさそうな強い尖った女性に見えたけれど、きっと心には棘がいっぱい刺さって涙を流していたのかしら?
今の貴方は少し棘が抜けているような…肩に力が入ってなくて、ふんわりと自然体でとても可愛いわよ。
パオラ…貴方バイオレットの出産が心配でしょ?」

「おばさま、、、、」
言葉を失って、ただ頷くパオラに目のふちをゆるませた夫人は、ビスコッティをミルクのたっぷり入れたコーヒーにつけて一口齧る。
「貴方もどうぞ、、美味しいわよ。
大丈夫…バイオレットは絶対大丈夫よ。私が責任をもってお預かりするから…信じなさい。
ふふふ、明日が楽しみだわ~ 」
「おばさま、、明日何かがあるんですか?」
「ルカとバイオレットの結婚式よ。
ルカには赤いリボンの首輪でいいとしても、バイオレットはどうしましょうかね~」
夫人は何か思いついたように視線を泳がせ、リビングに置いてあるバスケットからシフォンジョーゼットと綺麗なレースの端切れを取り出してパオラの前で広げてみせた。
「これでバイオレットのドレスを作るわよ。娘のドレスを作るときに使った生地を残しておいて良かったわ。
貴方も明日は立会人だからドレスアップしてきてね。」
気紛れにママの膝に手を置き、軽いパンチをしたバイオレットにパオラは苦笑いし、寂しげに呟きを漏らす。
「結婚式かーーバイオレットに先を越されちゃったね。
私がウエディングドレスを着る日なんて想像できないわ。」
「パオラ!12時までにはエージェントの事務所に行くって言ってたんじゃないの?」
夫人の言葉にパオラは慌ててフィアットに乗り込んだ。車窓から見える額の秀でた理知的な横顔を見送った夫人は、いつのまにか自分の足元で同じ方向を見ていたルカに気づいて目を細めた。

ールカに恋愛成就の魔力はあるのかし
ら?
ルカは夫人の視線を気にする事もなく、落ち着き払ったゆっくりした歩き方で、少々食べ過ぎと見えるこんもりと立派なお尻を見せながら遠ざかる。

ーあら、、あれはマエストロの…

夫人は二ヶ月ぶりに見かける…栗色の長い髪を艶めかせた、隣人の恋人の姿をガラス窓の向こうに認めて日焼けした頬を綻ばせる。
「彼女」は独りで外出するのか、鳶色の瞳には落ち着きなく、不安が滲んでいるが、大丈夫だろうか・・・
施錠したか何回も確かめている「彼女」は携帯の呼び出しに気づき、画面を眺めてホッとしたように口角を上げる。
「彼女」を心配した「彼」がメールを寄越したのだろう。

「彼」と「彼女」が幸せな時間を共有しているのは、朝 隣家から漏れ聴こえたラヴェルの「水の戯れ」を奏でる音からわかった・・・
強面で厳しく音楽に向き合っているマスコミ嫌いのマエストロ。
そんな穏やかならない評判が専らの、彼の打鍵が作り出す音色は、哀しいぐらい繊細で祈りのような厳かさがあったーーー

*・゜゚・*:.。..。.:*・'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

【親愛なる私の騎士(ナイト)さんへ

今日とっても嬉しい事がありました。
『私の家族』ラグドールのバイオレットと、とっても頼もしい黒猫のルカ君が結婚式を挙げたのよ。
ルカ君のママは元ピアニスト。
ルカとバイオレットのためにメンデルスゾーンのウエディング・マーチを弾いてくれました。
バイオレットはあと半月でママになるのよ。まだ二歳を過ぎたばかりのバイオレットに先を越されちゃった(苦笑)
ルカ君は赤いリボンの首輪、バイオレットはルカ君のママに作って貰ったオーガンジーとレースのケープを着せて貰って、耳にはレースで作った薔薇の飾りを付けていたのよ。
ウエディング・マーチの演奏のあと、ルカ君のママと私はシャンパンで乾杯したの。
結婚式と妊娠が後先になるなんて、人間様ビックリよね。
バイオレットは着慣れないものを着せられて迷惑顔をしてたけど。】

パオラは携帯に走らせている指先を止め、ルカとバイオレットのドレスアップして並ぶ姿を写真に撮っている、白いワンピースを着たアッカーマン夫人の泣き笑いを思い出して頬を綻ばせた。
【ルカ君はね、つれない態度で逃げ回るバイオレットを、38歳歳下の人妻に600通のラヴレターを送り続けたヤナーチェク真っ青の熱心さで辛抱強く追いかけてたのですって。いやがられない距離を離してはいたけれど。
ルカは諦めるどころか、変わらずバイオレットの側を離れなかったそうよ。『猫並外れた』無償の愛ってところかしらね。(笑)
そのうち、バイオレットは彼の歳上らしい包容力に落ちたのかしらね。ルカ君は8歳なの、歳の差カップルでしょ?私たちみたいね。
バイオレットがルカ君の傍らで、幸せの象徴みたいに丸く膨らんだお腹を無防備に見せてるのを見ると気持ちが浮き立ってくるわ。
透き通る風が優しく木立の緑をキラキラ輝かせるのを見上げている気分。
悩みや心配事も吹き飛ぶような気持ちが自然と湧いてきたの。
ああ、今度こそは『私にも』いい事がある。そう信じられる…不思議ね。
バイオレットの幸せを私にも分けてくれそうな…それ程ルカ君とバイオレットは仲良しなの。】

「結婚式って言えばキス!よね。

でも、ルカ達に『誓いのキスを…』って言っても分からないか・・・」
「ちょっ…お、おばさま、あ、あれ!」
「あらあら…何もいわなくてもルカとバイオレットはする事はするのね。」

二匹が鼻先を擦り付けあっている様子を、パオラと夫人は涙ぐみながら眺めていたのだったーーー

【ヒデ、調子はどうですか?
とってもお忙しいみたいで、この前スカイプでお話した時頬がげっそりしてるように見えたので心配です。
ラフ三、弾くのはスタミナが要りますよね…しかもヒデは指揮者のお仕事まで抱えているし。
『私のヘンデル』は以前と同じ、散々です。だけど前進したい、一歩でも前にと思えるから、不思議とカン先生の言葉が陽射しの温かさで伝わってくるの。ヒデの言葉が効いてるのかな?
先生は何度もアナリーゼの時間を作ってくださるのよ。有難くて…申し訳ないけれど、私は演奏でご恩返しする事しかできないから頑張って練習してます。
無事に公演がおわったらヒデとまた逢える……ご褒美が鼻の先にぶら下がっているとヤル気になるなんてホント我ながら現金だな~
ヒデも私と逢いたい?
私は心はいつも貴方のもとに飛んでるのよ。困った事に貴方の声まで、思い出すと自動再生されちゃう(笑)
貴方がなにを言ってるかは恥ずかしいから秘密です。
逢いたい、逢いたい、逢いたい!
誰にも言えないからここで叫ばせてね。

貴方のパオラより】

【僕の美しいひとへ

先ずはバイオレットちゃんのご結婚おめでとう。赤ちゃんが産まれると君の家族も増えるんだね。
僕は捨てられた牝猫を短い間だけ、家に置いていた事があるよ。
恋をしたのか、いつの間にか居なくなった。あいつ、幸せに猫人生過ごしたのかな?
なに?バイオレットに先を越されただって?(笑)
君は面白いな…猫に先を越されたって愚痴るなんて。


猫たちは贅沢だな…僕たちはこんなにもお互いを求めているのに離ればなれだ。
僕も、夜昼なく君の面影を思い出しているよ。音声自動再生付きでね。
昨夜、『あの靴』を履いている君が白いオーガンジーのドレスを着て僕の傍らに立っている夢を見た。
君は本当に嬉しそうで、地中海かな?白い壁が特徴的な階段の多い町の中にある小さな教会の祭壇の前に僕たちは立っているんだ。
グリーグのヴァイオリンソナタ…アレは確か三番のアレグレット・エスプレシーヴォか・・・
ソナタが、突如 頭の裏に響いてきて、曲のコーダが少しづつ小さくなっていくのと同時に、僕たちの姿も掻き消えてしまった。
君にあのドレスを着せたい、、、いつか叶うだろうか?

ご褒美だが、少し遠いがプラハに足を伸ばして更に三時間バスに揺られた先にある世界遺産チェスキー ・クルムロフ城を観に行こう。
ヴルタヴァ川沿いの高台にそびえ立つ城だ。たぶん君に満足して貰えるんじゃないかな。
さあ!鼻先に香ばしいご褒美を下げたからな。パオラニャンはハープを頑張れよ。

君に逢いたい・・・
君の唇、ツンと尖った鼻のライン、低めのハスキーボイス…
君と離ればなれでいるのに、まるで近くに君がいるように簡単に思い出せる。

僕は幸せだ。君の面影がいつも励ましてくれるから。
ありがとう…







君を愛している。

君の騎士(ナイト)より。】


「……もう、、ヒデの馬鹿、、、」

パオラは数行のスクロールのあと、トヤマの暫しの躊躇いのにじむ「アイシテイル」を何度も指先でなぞった。

頬を流れる涙が冷えて、首まで濡らしていくーーー
手のひらで目尻を拭うパオラの耳に、携帯の着信音が、涙のせいか曇って聴こえた。

【僕の泣き虫さんへ

パオラ、まさかボロボロ泣いてはいないだろうな?

君の涙を拭うためにある僕の人差し指は、君の心にいつも在る。


僕の前以外では涙を流すなよ、世間の男に誤解されては僕が困る。



君を信じている。
君も僕を信じろ。


僕のパオラへ、 ゆっくりおやすみ。


君の騎士(ナイト)より】

パオラは、まるで彼女の心を読んだような…トヤマのメールに碧い瞳を瞠(みは)る。

「もーーーっ! 何なのよ~
これ以上堕ちたら、這い上がれないって‼」

パオラは携帯を抱きしめて、眠りに落ちていったのだったーー





Little lovers(12)に続きます。
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